大判例

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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1908号 判決

原告 大西一功

右訴訟代理人弁護士 矢田英一郎

同 吉野徹

被告 拓植林業株式会社

右代表者代表取締役 大澤昭典

被告 大澤昭典

右被告両名訴訟代理人弁護士 長谷川昇

被告 坂井静雄

右被告訴訟代理人弁護士 天野憲治

同 村藤進

同 小島新一

被告 中里伸一

主文

被告らは原告に対し各自金一七一万二五〇〇円とこれに対する昭和五三年三月一四日以降その支払いがすむまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

(原告)

主文第一、二項と同旨の判決と仮執行の宣言を求める。

(被告中里を除くその余の被告ら)

原告の請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求める。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  被告会社は不動産の売買及びその仲介を業とする会社、被告大澤は被告会社の代表取締役、同坂井は被告会社の常務取締役であり、被告中里は不動産売買及びその仲介を業とする訴外新日本ハウス工業株式会社(以下訴外会社という)の代表取締役である。

《以下事実省略》

理由

一  被告会社が不動産の売買、仲介業を営む会社であること、被告大澤が被告会社の代表取締役であり、被告坂井がその取締役であること、被告中里が不動産の売買、仲介業を営む訴外会社の代表取締役であることの各事実は被告中里を除いて当事者間に争いがなく、被告中里に対する関係においては《証拠省略》によりこれを認めることができる。

二  《証拠省略》によると次の事実が認められる。

原告は習志野市方面に宅地を求めるべく探していたところ、被告会社名で分譲宅地の売出しを記載した新聞広告を友人から見せられたので、同広告に記載された電話番号に従って電話をした。その結果被告会社の営業部員佐藤和夫と称していた被告中里に現地に案内され、価格等につき被告中里と交渉を重ねた結果昭和五二年二月二五日売主を被告会社、買主を原告として、本件土地につき売買契約が成立し、代金を総額六〇〇万円、手付金三万円、中間金の支払いは昭和五二年三月四日一九七万円、残金の支払いは同月三〇日四〇〇万円とし、代金全額支払いと同時に引渡並びに所有権移転登記手続をする旨が合意され、その旨の契約書が作成された。代金額は、その後本件土地の正確な地積により計算し直されて総額五八六万二五〇〇円に訂正された。右契約の際被告中里のほかに被告会社営業部長と称する訴外中野清助が出席して契約した。原告は右契約の際手付金として三万円、昭和五二年三月一一日に中間金として一九七万円、同月三〇日に最終金として三八六万二五〇〇円を被告中里、訴外中野らに支払った。被告会社は本来、北海道に被告会社及び被告大澤が所有している土地の販売を目的として営業しており、本件土地は表面上は被告会社の商号を用いて分譲されたがその実質は被告会社の営業として分譲がなされたものではなかった。被告中里は従前新日本ハウス株式会社として不動産の売買、仲介に従事していたが、同会社が宅地建物取引業者としての資格を停止されたため、本件土地を含む一帯の土地を分譲するに当り、その資格を有する被告会社の商号を用い、自らはその従業員と称して営業をなし、本件土地の売買契約をなした。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠は見当らない。

してみると、本件土地の売買契約は、被告中里が自己の営業につき被告会社の商号を使用してなしたもので被告中里はその売買契約につき契約上の履行義務を負うものというべきである。

三  次に右売買契約につき被告会社の責任について検討する。

《証拠省略》によると次のとおり認められる。

被告会社は、昭和五一年一一月一三日被告所有の北海道所在の土地を訴外会社に売り渡したが訴外会社は宅地建物取引業者の資格を停止されて営業を続けることができなくなり、右代金の支払いが得られないこととなった。そこで被告中里は被告大澤に対し、被告会社の商号を用いて営業をなし右代金の支払いに努めたい旨申し入れ併せて被告会社の契約書用紙、領収書用紙を使用させて欲しい旨申し入れた。被告大澤は、被告坂井に指示して被告会社の契約書用紙、領収書用紙を被告中里に交付させ、被告坂井は右用紙に被告会社の記名印並びに被告会社印と刻した角印を押捺して被告中里に交付した。被告中里は既に認定したとおり、被告会社の商号を用いて本件土地を含む一帯の土地を分譲し、被告坂井から交付を受けた右契約書、領収書用紙を用いて原告と契約した。契約成立後二、三日して原告が被告中里から渡された封筒に被告会社の本社と表示されていた電話番号に従って電話をしたところ、応答に出た被告会社の女子職員と思われる者から、被告会社には佐藤と称する者も中野と称する者もいない旨告げられたので不審に思い、東京都住宅局指導課に赴いて調査したところ、被告会社は特に問題を起こしたことはないが、契約書、領収書に押捺されている代表者印は実印と相異すること、契約書に表示されている取引主任者坂内和夫なるものは取引主任者として登録されていないことが明らかになった。そこで原告は同課において被告会社の所在場所を聞いたうえ、原告の妻である訴外大西康子が、昭和五二年二月二七、八日ころ被告会社を訪れた。当初女子職員が応待して、佐藤、中野という者は被告会社には居ないと答えたが、途中から被告坂井が応待に出て、千葉の土地のことであれば被告会社の渋谷の営業所で扱っている、契約書、領収書に押捺されている代表者印は実印ではないが契約書用に作ったもので間違いない、取引主任者坂内は新しく入社した職員であるため都に申請手続が済んではいないがその手続準備中である旨答え、男子職員に指示して渋谷営業所の所在図を書いて右訴外康子に交付し、訴外康子はそれに従って被告会社の渋谷営業所と表示のある事務所を訪れ被告中里と面談した。

以上のとおり認められるところ、以上の事実を総合して判断すると、被告会社は被告中里の求めに応じて、被告中里が被告会社の商号を用いて営業することを許諾し原告は被告中里の本件土地の販売を被告会社の営業行為と誤認して契約に応じたものと推認することができる。

《証拠判断省略》

以上のとおりであるとすれば被告会社は訴外中里のなした本件土地の売買契約によって生じた債務につき、商法第二三条によりいわゆる名板貸の責任として訴外中里と連帯して弁済の責に任ずべきである。

四  《証拠省略》によると、本件土地は売買契約の時においては訴外仲村昌則の所有であって被告中里並びに被告会社の所有でなかったところ最終の代金支払期日である昭和五二年三月三〇日までにその所有権を取得できなかったばかりでなく、その後も右訴外人の代理人である訴外石井庄一と被告中里が原告をまじえて話合ったが結局右訴外人からの所有権移転はなされないことに決したこと、原告が被告中里に支払った代金のうち訴外仲村に対する支払いとして訴外石井に交付してあった金員は訴外石井より返還を受けたこと、そこで原告は右売買契約につきその履行は不能に帰したものとして昭和五二年九月二二日被告会社に到達した書面により契約を解除した(右契約解除の事実は被告会社、被告大澤においては争いがない)ことの各事実を認めることができる。

以上のとおりであるから、被告中里、被告会社は連帯して、原告において支払った売買代金五八六万二五〇〇円のうち、原告が既に返還を受けたことを自認する四一五万円を差引いた残金一七一万二五〇〇円につき、契約解除に伴う原状回復として原告に返還しなければならない。

五  最後に被告大澤、同坂井の責任について判断する。

被告中里の所在が不明となり、右支払済みの代金につき返還を得られないことは、《証拠省略》により明らかである。

また、《証拠省略》によると、被告会社は昭和五二年一月四日約束手形の決済ができなくなって事実上倒産し(倒産の事実は被告会社、同大澤においては争いがない)無資力の状態にあり、右代金の返還を得ることはできないものと認められる。

従って、原告は被告中里が被告会社の商号を用いてなした右売買契約により、返還を得られない代金額一七一万二五〇〇円相当の損害を被ったものということができる。

ところで、他人に対し商号の使用を許し、自己の名において営業することを認めることは、これを十分に監督し規制し得る何らかの措置がとられているなど特段の事情がない限り会社及び第三者に不測の損害を及ぼすおそれがあるというべきであり、しかも営業をなすにつき一定の資格が法律上要求されている宅地建物取引業につき、これを潜脱する結果となるような名板貸をなすことは一層その危険性が大きいものと考えられるから、前記認定のとおり、被告会社の代表者として被告中里に対し、被告会社の商号の使用を許諾した被告大澤はもとより、取締役会を通じて会社の業務執行を決定し、代表取締役の行為を監視し規制すべき取締役の地位にあった被告坂井も、被告大澤の行為を規制することなく、却って、前記認定のとおり契約書類を被告中里に交付し、訴外大西康子に事実に反した説明をするなど積極的にこれに関与しているのでありいずれも、その職務を執行するにつき重大な過失があったものというべきであり、その結果生じた原告の前記損害につき商法第二六六条ノ三により被告会社と連帯してその支払いの責に任ずべきである。

六  以上のとおりであるから、被告会社、同中里に対し、契約の解除による原状回復として、被告大澤、同坂井に対し商法第二六六条ノ三に基く損害賠償として連帯して一七一万二五〇〇円とこれに対する被告会社、同大澤、同坂井については何れも本訴状が送達された日の翌日以降であり、被告中里については損害の発生した後であるいずれも昭和五三年三月一四日以降その支払いがすむまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の請求は理由がある。

よって、民事訴訟法八九条、九三条一項本文、一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

〈以下省略〉

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